赤い屍体と黒い屍体、引揚者と被爆者「立花隆 最後に語り伝えたいこと」 読書感想(読み直し)

立花隆 最後に語り伝えたいこと 大江健三郎との対話と長崎大学の講演 読書感想

おススメ度★★★★★
 2021年に亡くなられた立花隆さんの本。本書は、正確には、立花氏が亡くなられた後に彼がどうしても伝えたいと切望したメッセージに沿って、書籍未収録の講演録や対談などを収めたもの。
 今年2025年は戦後80年。80年の機に少し前に読んだ本書を読み直そうと再読したが、立花さんが亡くなられてから既に4年経っていたとは・・・時の速さに驚かされる。
 本書の内容は多岐にわたる。小生が感銘と言うか衝撃を受けた部分を中心にご紹介してゆく。

赤い屍体と黒い屍体

 収められている話はどれも印象的だが、タイトルにした「赤い屍体と黒い屍体」は、立花氏が画家の香月康夫さんの(終戦後の)抑留体験記「私のシベリア」の中の「赤い屍体」を読んで、立花氏の中でモヤモヤしていた引揚者にまつわる胡散臭さをはっきりした形にできたと書かれている。あらためて説明すると、「黒い屍体」は香月氏が中国から引き揚げ後に広島で見た原爆の犠牲者の黒く焦げたご遺体(の写真)を現わし、「赤い屍体」は香月氏が中国からの引き上げ時に列車の中から無数に目撃した、おそらくは私刑を受けた日本人、恐らくは全身の皮を剥されさらし者になっているご遺体の事である。そして「赤い屍体」は加害者としての死である。そこまで恨みを買っていたということだ。
 香月氏は黒い遺体の写真に触れる際に赤と黒の屍体が重なるとしている。そして、戦争の本質への深い洞察も、真の反戦運動も、黒い屍体からではなく、赤い屍体から生まれ出なければならないと語る。
 立花氏は、この話に触れることで、自分の中にもある「被害者意識のうえ」に成り立っている「不幸に酔ったような」「いい気な平和祈願の腰つき」・・・これが立花氏を腹立たしい思いにさせていた。戦中派が原体験を語る時、「みずからのいやらしさと矛盾に気付くことはないのだろうか」と語って行く。

ベルギー人の悲劇、悲劇への甘え

 立花氏は、赤い屍体と黒い屍体を、コンゴ動乱初期の受難したベルギー人と比較して想いを語る。1960年のベルギー領コンゴの独立と、引き続く内戦による混乱の中で、ベルギー人を中心とする白人は、略奪・暴行をうけてコンゴからの引き上げを余儀なくされ、引き上げに際し多くの白人の女性が強姦されるなどの悲劇が起きた。白人側であるアメリカ人のレポートには「アフリカ最大の残虐行為」とされた。
 一方で、立花氏は、それまでの植民地支配したベルギー側の現地での搾取や二世代にわたって人間扱いされなかった経緯などに触れる。我々日本人が皆 教科書で教わる歴史・・・16世紀以来のヨーロッパ人のアフリカ原住民への迫害、資源を搾取、そして奴隷のように使っていた実態があり、その搾取によってヨーロッパは栄えてきた。原住民側に有能なレポーターがいれば逆のレポートがされていたはずだと説く。
 翻って、戦後引き上げの日本人にあてはめ、被害者意識が前面に出ていて、原住民側での視点のレポートが欠けていると嘆いているのである。

大家健三郎氏との対話など

 本書には、1991年の大江健三郎氏との対談内容なども収録され、環境問題や人口問題、そして移民問題から日本の中の外国人問題に触れられており、先見の明に驚かされる。
 また、第一次世界大戦に参加したものがいなくなってゆく様に、語り継ぐ被爆者がいなくなる日、その後をどうするべきかなどを語って行く。

目次

 「まえがき」に代えて

第一部 戦争の記憶
 講演「被爆者なき時代に向けて」
  戦争体験者がいなくなる日
  『アサヒグラフ』に受けた衝撃
  「デジタル・ミュージアム 戦争の記憶」
  負け続けてもいいから 自分の意思を持ち続ける
  「なぜ核兵器はいけないのか?」
  核廃絶を実現した カナダの市民運動
  日本の一方的核廃絶の意義
  日本が豊かなわけ
  赤い屍体と黒い屍体
  「全民族はそのために 悩まなければならない」
  エノラ・ゲイの乗組員たちの会話
  ヒロシマ・モナムール
  記憶を残して行くために
  被爆者なき世界のために
  吉田茂の自問 

 日本人の侵略と引き上げ体験 赤い屍体と黒い屍体
  ”乗り遅れ”と一家離散
  二つの屍体が語る終戦
  原体験の腹立たしさ
  ベルギー人の悲劇
  悲劇への甘え
  引上げ必至の醜い日本人

 「デジタル・ミュージアム 戦争の記憶」構想
  思い切って実行するれば、宇宙をかき乱せるかもしれない
  ミュージアムの設計は、安藤忠雄さん
  案内人は、大江健三郎さん、ギュンター・グラス氏とともに
  自分が乗っている宇宙船が もしも事故に遭ったら

第二部 世界はどこへ行くのか
    <対談>大江健三郎×立花隆
  ソ連崩壊
  東西冷戦に覆い隠されていたこと
  汚染されていく環境の問題
  人口問題と移民問題
  排他主義の危機
  傍観者の罪
  格差拡大により、極端にアンバランスになる
  地球市民として
  中国のこと
  外圧ではなく正義の実現として

解説 時代に生き、万象の深部を見る 保阪正康
 タチバナ家との出会い
 ノンフィクションの世界は「田中角栄研究」で幕を開けた
 ヒトの人たる所以は真っ向から向き合って
 戦後民主主義教育、第一期生としての職務
 きみたちは歴史の中で何を自らに問うて生きるのか

読後感想

 小生の読書感想と、関連話題です。

赤い屍体と黒い屍体、小生の意見(日本の原子爆弾開発と風船爆弾)、被爆を語り継ぐ・・・時間の懸念

 赤い屍体と黒い屍体は、立花氏にして自身のもやもやをクリヤーにした。小生も同様である。

 小生の意見で、本の内容から外れて恐縮だが、アメリカの原爆投下が国際法違反と声高に叫び被害者意識にだけ使っている人がいると、その通りではあると思うのだが、なんか違う気がしていた。日本はアメリカに対しても民間人への無差別攻撃・同様のことをやっている(規模の大小は計り知れないが・・・)。
 ご存じの方は少ないと思うが、第二次世界大戦中、日本も原子爆弾を研究開発していた。完成には至らなかった。が、実は戦中派の方はよくご存じである。極秘事項の研究開発だが、日本の劣勢が明らかになると、「今、マッチ箱ひとつで軍艦をあとかたもなく蒸発させる新型爆弾を作っている」(←こちらは聞いた人から小生が直接聞いた)「まもなく、一発で大都市を吹き飛ばすほどの新型爆弾を作っている。今は苦しいが頑張ってくれ」っと、意識高揚に聞かされていたので、広島の新型爆弾の話を聞いたら先を越されたとすぐわかったと言う。
 そうは言っても日本は民間人への無差別攻撃はやっていないではないかと反論があるかもしれない。しかしまた、あまり知られていないが日本は風船爆弾を日本各地からアメリカに向けて放出している。これはただ飛ばしているだけではなく、アメリカで落ちるような仕組みになっていたようだ。先般、中国のバルーンがアメリカ上空を飛行して問題になったが、何十年も前に日本が先駆けていたのである。更に、アメリカが情報統制に成功したので戦中派の皆さんもご存じの方は少ないが、アメリカ本土に着弾して被害を出しているし、民間人もなくなっている。

 本書に戻ると、年月が経過し、やがて原爆の直接の被害者が一人もいなくなった後で、この悲劇をどう語り継ぐかを1つの柱としている。本書の内容から離れてしまうが、お互いに同じようなことをやり合っていた事を知ったうえで原爆を語り継ぐのと、ただ被害者意識で語り継ぐのでは性質が異なってしまうと思う。
 小生は、ずっとモヤモヤしていた。立花氏同様と言うと横柄だが、赤と黒の屍体の話を聞いて、何か腑に落ちたような気がする。そして、赤い屍体を作り出してはいけないと思うのである。

外国人問題

 2025年の参議院選挙の大きな争点は外国人問題であった。
 本章に収録されている大江健三郎氏と立花隆氏との対話で本件が話題に上がったのは1991年である。内容は古い気が全然しない。お二人の先見性にただ驚くばかりである。
 1991年当時の性的問題におけるフェイク・ニュースの拡散を取り上げ、関東大震災の際の暴動の噂に対応して虐殺が起きたという問題と、不法流入外国人労働力と反感について取り上げている。立花氏は帰国子女問題を危惧し、大江氏は将来外国人の子供が日本の学校の中に入ってきた時の2つの可能性について希望と危惧を語っている。希望は日本人が国際的に偏見の付き合い方が出来る様になる可能性、危惧は非常に大きな差別につながるのではないかと云うものだ。差別を受けた外国人の子供たちは、はっきりとした日本人に対する考え方を持ち自国へ帰ってまわりに広めるであろう。私たちは、今、この2つの可能性の岐路に立っている。

↓↓↓引揚者の悲劇の一例。引揚げ後、岐阜県で大変な苦労をされます↓↓↓

↓↓↓日本の原爆開発について、知りたい方は↓↓↓

関係リンク

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 NHK 100分de名著|キューブラー・ロス「死ぬ瞬間」・・・ちょっと物足りなかった

関係外部リンク
 Chez TACHIBANA ・・・ 本の巻末に記載の立花さんの公式ページ
 立花隆 – Wikipedia

 大江健三郎 – Wikipedia ・・・ 写真が若い

 香月泰男 – Wikipedia
  香月泰男美術館

 安藤忠雄 – Wikipedia
 ギュンター・グラス – Wikipedia

 保阪正康 – Wikipedia

 シベリア抑留 – Wikipedia
  引揚者 – Wikipedia
   ソ連兵の「性接待」を命じられた乙女たちの、70年後の告白(平井 美帆) | 現代ビジネス | 講談社
  たかす開拓記念館 – Wikipedia
  たかす開拓記念館 | 郡上市 Gujo City

 コンゴ動乱 – Wikipedia
 日本の原子爆弾開発 – Wikipedia
 風船爆弾 – Wikipedia
  2023年中国気球事件 – Wikipedia

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