ひとり事故調 「墜落の夏 日航123便事故全記録」吉岡 忍 著

ひとり事故調 「墜落の夏 日航123便事故全記録」吉岡 忍 著 読書感想

 「~飯は早めに食っておきなさいと。そうでないと食えなくなる~」(p.207)検死を前に仲間の医師たちに向けて広島での原爆被災者救護の経験があった小児科医の言葉・忠告。
 小生もこれから本書を読む読者に同じ言葉(読書前に食事を済ませる様に・・・)を伝えたい。本書の中段を喫茶店で読んでいた小生は、飲み物・食べ物に手が付けられなくなってしまった。すごい。
   おススメ度:★★★★☆
 本記事は、「墜落の夏 日航123便事故全記録」の中公文庫版(2025年6月25日発行の初版)を元に記載しています。1986年8月刊行の単行本・新潮文庫版に、「四十年後の補論」、及び神里達博氏の解説が追加されています。

本書について

 おそらく、JAL123便に関する書籍の中では一番読みやすくて読みごたえがある(当ブログの他の記事で他の方の方が読みやすいと書いたが・・・)。
 巻末を除いて、1985-1986年に日本航空123便事故の直後から1年後までの間に、事故に関係する多方面(ご遺族・事故調・設計整備部門・保険等々)について取材、纏め上げた内容です。文中にも記載されているが、著者はひとり事故調(ひとり事故調査委員会)とあだ名されるほど、多方面への関係者への取材、専門家からの教えを受けていて、内容が厚い。特に(小生の邪推だが)、事故調の中間発表に落胆し事故原因や事実・現実を明らかにしたい整備部門の協力を得て深い考察になっていると思う。事故調査の調査内容(客室後部の圧力隔壁に穴が開き、圧縮空気が噴き出し、後部胴体を吹き飛ばす)を紹介しつつも、(反対意見である)外部要因説(隕石・人工衛星・飛翔体・ミサイル)をさりげなく紹介し、ボーイング提案に飛びついてしまった事故調が海底に沈んだ機体を引き上げなかったことを、さらりと批判している。
 巻末の「四十年後の補論」に記載されているが、本書は書き手がわかった気になったりしないように飛行経路図(p101)を除き図表が全くない。ちょっと全然違うのだが、先般、怪談で有名なラフカディオ・ハーンの奥様・小泉セツさんの思い出の記の読書感想を記事にしたが、ラフカディオ・ハーンがセツさんに物語(怪談など)を語る際に何も見ないで(すべて暗記して)語って欲しいと依頼するのだが、共通するものがあると思う。(すべての関連事象を消化して/自分のものにして)自分の言葉で語っている。
 確かに図表がない分、説明が回りくどいところも、ところどころある。だが、言葉に重みがついて回っている。これは、事故当初から自分自身で取材されていることもあり、また日航整備関係者(だと思う)などが事故の詳細を明らかにしたいという熱意を感じ取って、技術的な面を後押ししている様に思う。
 生存者の落合由美さんにも直接、長時間の聞取りをされており、この内容は事故同時の機内を知るうえでも、事故直後の救助活動についても一次情報として知ることが出来、貴重だと思う。

 なお、本書は事故当時、何があったかを多方面から雄弁に語っている。が、事故原因を探求しようとしている面もあるが、独自の要因を主張しているものではない。ただ、事故原因究明のためにも、海底に沈んだ後部胴体や垂直尾翼を引き上げるべきだったとは主張されている。

目次

 1.真夏のダッチロール
 2.三十二分の真実
 3.ビジネスシャトルの影
 4.遺体
 5.命の値段
 6.巨大システムの遺言
  あとがき
  四十年後の補論
  解説 神里達博

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読書感想

 描写力はピカイチである。前述の様に小生は喫茶店で読んでいたが、鑑識が(当然仕事として)ご遺体の写真を次々撮りながら、子供のご遺体の写真を撮った瞬間に、自分の息子と変わらないことに、パタッと全身が止まってしまう・・・この記述で涙を流してしまい・・・・、その後の巨大な蝿の描写で口に何も入れられなくなってしまった。医療関係者のご苦労に感謝したい。また、事故に遭われ亡くなられた方にご冥福をお祈り申し上げます。

 様々な関係者、特に相反する関係者には双方に綿密・内実に迫る取材をしており、読みごたえがある。例えば、ご遺族と、ご遺族に寄りそう日航の世話役の双方に本音を引き出している。ご遺族に対する日航側の説明は、「永遠に許されざる者」を読んだ後だとむなしく感じてしまうが、本書では日航の担当者の本音は見事に描写されている。

 また、1985年当時の事故機と同型機のボーイング747SRの機体の中に何度も入っており、後部胴体の内部描写も見事だ。
 この機体概要に加えて、設計思想の変遷や整備士層の変遷と設計と整備の統合などに触れ、最終章 巨大システムの遺言は、人間とシステムの関わり方に言及されており、40年前の文書とは感じられない新鮮さがある。

個人的な興味部分をちょっとだけ・・・

 最後に個人的な興味に偏るが、小生は事故を起こしたボーイング747SRがどのような機体か知りたくて、いろいろ調べている。当時の747は、今では747クラシックと呼ばれていて、今飛行している747とはかなり違う。例えば、コクピットがタッチパネルではなく、昔風に計器やスイッチに囲まれている。
 小生が違いを知りたいのは、特に、操縦系統で、油圧が切れた後に操縦がある程度できるか・・・である?今の自動車はパワステが当たり前で、油圧や電気でハンドルがアシストされていることも知らない運転者は多い。だが、(経験者はまずいないと思うが・・・)走行中にエンストすると油圧が切れてものすごくハンドルが重たくなる。試しにエンジンを切った状態でハンドルを回してみれば・・・と云いたいところだが、ほとんどの車で盗難防止のハンドルロックがかかり回せなくなると思う。ただ(言いたいのは2つ)、車の設計では油圧が切れてもハンドルを回せばタイヤは回る(何とか操縦できる。超大型車だと走行中しか無理だが・・・)。また、ハンドルが重たくなるので運転手は操縦系統に何かが起こったことがわかる。747SRではどうなのだろう?
 本書には、操縦索の記載がある。ケーブルが圧力隔壁を貫いている記述。フライ・バイ・油圧ではない様だ。となれば、副愛発生直後の操縦桿やラダーペダルにはどんな反応があるのだろうか?スカスカなのか?ギチギチなのか?コクピットでは動翼の変化に気付けなかったのだろうか?小生の疑問である。

 また、747SRは水平尾翼が動くかどうかも注目している。昔の飛行機は水平尾翼ががっちり胴体に固定されていた。だから、梁ががっちり胴体の骨にくっついていて横に貫いている。でも、今の飛行機は水平尾翼自体がわずかに動いてバランスがとれるようになっている(すなわち胴体と水平尾翼はくっついていない)。これにより後部胴体構造が全然異なる。すなわち、隔壁から噴き出した噴流がどっちへ行くかである。 
 本書の記載によれば、747SRはフライング・テール(水平尾翼自体をわずかに動かしてバランスを調整する)との事である。トルクチューブの記載はないが、アクチェーターの記載はちょっとだけある。フライング・テールとなると、水平尾翼は一体構造でない。左翼・中央(後部胴体)・右翼の3分割になると思われる。

 あと、小生、違和感を覚える文章がある。報告書の案について、その中のボーイングによる隔壁修理を写した写真についてほほえましいとしている点だ(p345~)。残念ながら、どの写真を見てこう評しているか小生にはわからない。ただ、文中にリベット(ネジみたいなやつ)の間隔は均等でない旨が書かれており、また報告書の案にはさりげなく「全般にリベットの打ち方は乱れていた」と紹介されている。これは、誤解を含んでいると小生は思う(日航の整備の方が説明しなかったか疑問・・・)。リベットは、正規に打っても均等にならないし、もちろんいい加減に打っても均等にならない。小生には修理箇所がどちらかわからないが・・・破れて穴が開いた服を厚布の布当てしたことがある人や自動車に空いた穴を金属で穴埋め(いわゆるパッチあて)した方はわかると思うが、すでに修理材は伸びてまっすぐでないことが多い(くにゃくにゃ)。そこに、まっすぐだったりカールしたパッチ材を当てるので、接触した部分からなじむように留めて行く。ましてや、金属でねじ止めする際は、ネジ穴の2倍から10倍くらいの間隔のいいところを留めて行く(穴間隔が短いとそこで亀裂になるし、広すぎるとスカスカで力がかからない)。しかも、金属修理の際は、元のネジ穴がそのまま使えればそのまま、傷んでいればオーバーサイズやワンサイズアップの穴に拡げて(きれいな丸穴に整形して)、その拡げたいろいろな穴径の2倍から10倍くらいの間隔でねじ止めするので間隔はバラバラになる(次の修理のためにネジ穴はなるべく広げたくない(均等にしたくない))。さらに、ねじ止めすると板が伸びたり縮んだりするので、留めながら次の穴位置を探す・・・又は仮止めして全体を見てから穴あけ・・・・
 つまり、丁寧にやるとリベット(ネジ)の間隔は不均等になるし、ある程度丁寧にやるときれいになるし、いい加減にやっても不均等になる。小生、鈑金修理のパッチのネジ位置決めの係をやったことがあるので・・・その2~10倍のパズル解きに吐きそうになった・・・そのうえで留めて行くと板が伸びたりして考え直す必要が出てきたりする。修理図面にはきれいなネジ位置は例示だから、実際は現場合わせで・・・等と書いてあったりする。
 JAL123便のリベットの打ち方が悪かったとは聞いたことがないので、たぶん(パズル解きの同志として)丁寧にリベット打ちしたのではないかと思う。修理の人間性(相手(故障・損傷)が千差万別なので一律機械的に修理できない)をほほえましいと書いている様には思えないので、違和感を覚えた点です。(まあ、小生の経験とは全然規模が違いますが・・・ただ、この章で手を使った経験の有無を論じているので、そこにはつながると思います)

海中の後部胴体や垂直尾翼の引揚げを

 本書の内容からは外れるが、本書の中でも語られているが、テレビ局が依頼する民間業者でも海中の部品を撮影することが出来た。日進月歩で、以前より安価で海中に沈んだ船を引き上げることはできると思う。
 是非、原因究明に、今からでも事故機の海中の部品の引き上げを・・・・小生にできることと言えば、引き上げに尽力すると言ってくれた国会議員候補に一票投じることぐらいしかないが・・・。

・・・・・申し訳ないですが、本記事では、本書の魅力を伝えきれていない。機会をとらえて書き直してみたい・・・

関係リンク

本ブログの関係記事です。
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関係外部リンク
 吉岡忍 (作家) – Wikipedia
 墜落の夏 -日航123便事故全記録- – Wikipedia

 日本航空123便墜落事故 – Wikipedia
  関係するリンクも多数あります。
 日本航空123便の御巣鷹山墜落事故に係る航空事故調査報告書についての解説
  事故調査報告書へのリンク、およびその解説が貼付けされているページです。
  操縦輪やラダーペダルの動きは、報告書297~298頁 DFDR図-2 10.別添2~別添5(一部)
  エンジンの操作記録(出力記録)は、報告書の301~302頁で、DFDR図-4 です。


 青山透子公式サイト 日航123便墜落の真相
 青山透子 – Wikipedia ・・・ 青山さんが誤りがあると怒っていますが・・・

 赤城工業株式会社|アクチャル 03
 赤城工業株式会社|アクチャル 04
  救難ヘリの救助員の出動記録(回想)です。
 
 日航機墜落 事故調査官 100ページの手記に書かれていたこと|NHK事件記者取材note

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