冤罪の深層 追跡・大川原化工機事件 石原大史 著 読書感想

冤罪の深層 大川原化工機事件 読書感想

 人間は弱い・・・。そんな言葉が、読みながら常に浮かんでいた。
 「無念」が積み重なって行く。
 読後、ものすごい重たい雰囲気に包まれます。
おススメ度★★★★★
(刑事事件や捜査に興味がある方、警察捏造の冤罪事件に興味のある方、警察内部(中核)・公安部がどのようになっているか知りたい方、正直な警察官を信じたい方)

あらまし

 未曽有の警察捏造型の冤罪事件「大川原化工機事件」の深層を追いかけた一冊。元はTV番組NHKスペシャル 冤罪の深層シリーズで放映した内容を、チーフ・ディレクターである著者が改めて振り返り纏め上げた内容。

「大川原化工機事件」

 「大川原化工機事件」は、同社が製造・輸出した噴霧乾燥装置が、生物兵器などに転用できる装置と知りながら必要な手続きをせず中国や韓国に不正に輸出したとして外為法違反で社長など3名が逮捕拘留された事件。噴霧乾燥装置は、液体を装置の中でスプレー状に噴霧し乾燥させて粉末を製造する装置で、粉ミルクやインスタント・コーヒーなどが製造できるもの。
 警察・検察・裁判所は、逮捕前から任意聴取に協力的だった同社の社長などを、逮捕し、証拠隠滅の恐れがあるとして長期間拘留した(保釈を何度請求しても認められなかった)。3名のうち、技術顧問は拘留中に体調不調を訴えたが、短期間の検査しか認められず(短期間なので治療が行えない)、その検査でがんが見つかったがすでに手遅れで治療のための保釈されたもののすでに遅くなくなった。
 長期拘留後、検察は初公判直前に、弁護側主張に基づいて再調査したところ、不正輸出には該当しなかったとして、<起訴を取消>した。

 逮捕された社長・取締役と遺族は、国と東京都に対して損害賠償を求め訴訟を起こす。この裁判の中で、証人として呼ばれた検察・警察関係者などから謝罪はなく、一方で証人として呼ばれた捜査官から「捏造」があったと衝撃の証言があった。地裁で社長側は実質勝訴したが、東京都などは控訴した。控訴審では、警察内部の資料などが証拠提示され、さらに踏み込んだ判決となった。控訴審(第2審)の判決後、ようやく警察・検察から関係者に謝罪された。

上部組織の暴走が止められなかった

 事件を調査していた著者らは、クローズアップ現代などで調査内容を報道すると、警察内部から告発者など情報提供者から内部事情の提供を受ける。
 時は「経済安保」が叫ばれ出した時代。安全保障にかかわる輸出案件として、大川原工業の噴霧乾燥装置がターゲットとなる。噴霧装置が、<滅菌または殺菌できる>機能が作り込まれていることが輸出規制の要件なのだが、立件には様々な問題が警察に立ちはだかる。
 まず、殺菌という言葉は、一般的な用語だが、実は定義がない。ある意味で間違って経産省の省令に記載されてしまった為に、噴霧装置が該当すると経産省は言い切れない。どうしても立件したい警察組織は、著名な専門家などの意見を切り取った文書を作成し、経産省に該当と言わせようとする。
 また、殺菌できるという能力が該当の噴霧装置に能力があることを警察は実験で示すのだが、別の会社の意見などを聞き、殺菌には装置内で110℃以上の温度が必要で、装置の排出口が一番温度が低いとして、実験し確証を得る。ところが、捜査過程で出口ではない部分に低温のスポットがあることが判明し、立件は見合されるかと捜査員達は思ったが、上部指示で機械の想定外の高温設定するなどして装置内の殺菌温度を作り出す(それでも、装置で殺菌が出来ないことは裁判過程で大川原工業が実験して示した)。
 また、調書の捏造が露見する。一部の捜査員が取調後に調書を作って、容疑者に内容確認の上サインを求めるのだが、修正要求に対して修正ふりをしてサインを指せたことが発覚し、容疑者が激高しトラブルが発生する。そして捜査員が、容疑者をなだめるために調書をその場で破棄するという事案が発生する。調書を破棄するという行為は明確なルール違反で、捜査員たちは問題視し上申するが、もみ消される。
 このほか、内部通報もされたようだがもみ消された様だ。
 本件は、既に警視庁内で大きな事案として扱われ、既に上部としては、引くに引けない状況になっていったようだ。

 大きな事案としての上層部の期待、そして期待に応えるべく、都合のいい解釈、関係省庁の弱みに付け込んだ妥協案、調書や報告書の捏造などが雪だるまに膨らみながら、立件されてゆく。
 そして、人質司法として、体調不良の役員の保釈も認めず、ついには死に至らしめてしまう。

捜査員達

 捜査員たちは、一部を除き、おおむね本件の立件には反対の立場で、幾度も中止を上申するが、大きなうねりに巻き込まれ、職務に従い上長指示に従って行く。
 一部は、NHKの取材に対し、秘密裏に告発を行う。
 一部は、上述のように、裁判の場で堂々と捏造があったと証言するのである。

謝罪と再発防止

 裁判が結審し、警察関係者などは一転して謝罪を行う。
 再発防止の一環で、関係者の処罰を行うが、減給など軽いものにとどまる。
 また、再発防止策も、スピード策定され、関係者から実効性に乏しいと陰口をたたかれる。
 警察は身内には甘いとよく言われるが、その通りの内容に感じられてしまう。

原因究明せずに再発防止はありえない

 本書の最後は、亡くなった会社役員の妻への警察関係者の謝罪の場面となる。
 その前に、捜査員の一人が、個人的に自宅に謝罪に訪れ、謝罪を受け入れている場面が描かれている。
 一方で、再調査や再処分を決して認めず、すでに組織防衛の感がある警察関係者に対して、とても自宅では謝罪を受け入れられないとの心情から、夫の墓地で謝罪を受けることになる。
 謝罪後、最後に奥様がつぶやいているのが、「原因究明せずに再発防止はありえない」と云う言葉であり、たいへん重たいものとなっている。

 小生、先日の東芝洗濯機のリコールでコールセンターの対応に憤慨したり、以前の経験から根本原因解析などの記事を書いているが、あらためてものすごく重く受け止めた。

本書は相嶋さんに捧げられる

 本書は、内容が内容だけに、たいへん重苦しい内容で、最後に解決して明るい未来と云う内容ではない。読み進めて行くと、大変重い内容に、小生の生活も何か重苦しくなってゆく。非常に重い読書感だったことを記しておく。

 本書最後にあとがきとして、告発者から著者へのこれだけは記してほしいとした捜査本部の亡くなられた相嶋さんへの評価・対応が記されている。
「彼にまともに反論させたら事件はつぶれる・・・「相嶋に技術論をさせるな」・・・」

 敵に、これだけ言わせるような技術者になりたいと思う。
 そして、何故、反論でつぶれるような案件を進めたか、原因究明と再発防止に期待したい。

関係リンク

大川原化工機事件 – Wikipedia

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