思い出の記 小泉 節子(「ばけばけ」主人公のモデル)著 読書感想

面出の記 小泉セツ 読書感想 読書感想

おススメ度★★★★☆(一般の方|読書好きの方)
 怪談で有名なラフカディオ・ハーン/小泉八雲の奥様で、小泉セツの方がなじみが良いかもしれない小泉節子さんの著作です。小泉セツさんは、朝ドラ「ばけばけ」の主人公 松野トキのモデルです。
 1927年発刊。夫 小泉八雲さん(セツさんはヘルンさんと呼ぶ)が亡くなった後に、夫の出会いから晩年に亡くなった少し後までを思い出話として語った一冊です(生まれてからの欧米の暮らしや、日本に来た当初は触れられていません)。気難しいけど何処となくユーモラスな夫 ヘルンさんとの丁々発止?なやり取りの連続。ヘルンさん言葉爆発の一冊です。注:ヘルンさん言葉とは、ヘルンさんとセツさんしか通じないと言われる国際結婚ならではの独特な日本語と少し英語などが混じった会話です。
 本作は、青空文庫で読むことが出来ます。

あらすじ

 二人の出会いの地、松江から物語は始まります。ヘルンさんの人となりを紹介しながら、各地を転々として行きます。
 いろいろあって、出雲の学校に独りで赴任することになったヘルンさんですが、松江を気に入ります。(そこでセツさんと出会い結ばれるのだが、その辺は本書にない)。

ヘルンさん

 本書では、随所にヘルンさんの人となり(性格・人柄)が紹介されてゆきます。優しくて真っ正直、美しいものには目がない。何事も和風を好み。一国者。偏屈だけど優しい心根・・・。
 日本通で日本に来たヘルンさんは、何事も和風。学校の講義を終えて帰ってくると、和服に着替え、座布団に座り、煙草を吹かす。料理も日本料理を好み、箸で食べる(でも、ビフテキは好きだったらしい)。洋風に改める日本を見て、「日本にこんな美しい心あります。なぜ西洋の真似をしますか?」と嘆く。
 嫌いとなると我慢しない。宴席は嫌いではないが大騒ぎは嫌い。温泉宿に泊まった時に酒飲みたちが大騒ぎしていると、「好みません」と宿屋を変えてしまう。
 子供にいじめられた子猫を家族が保護してどんなことをされていた事を聞いたヘルンさんは、濡れている子猫をさっと懐に入れ温める。
 都会が嫌いで郊外に住む。引っ越して、気に入ったところがあるとセツを連れ出すとそこは墓場。
 泳ぎが大好きで、気に入った場所では船から飛び込もうとして、周りから止められる。後半生、焼津などには毎年泳ぎに行ったようである。
 片目が見えない(本書では紹介されていないが16歳でブランコのロープが左目にあたり失明。右目も強度の近眼)。やはり本人は気にしており、長男が生まれるとき「良い目を持って生まれてきてください」と願う。
 面白い時は世界中が面白い。悲しい時は世界中が悲しい。怪談の時でも、ほかの時でも、どっぷりその世界に浸かり込む。その世界に入り、その人物になりきる。書斎から竹藪の笹がサラサラと音を立てると「平家が滅びてゆきます」・・・風の音を聞いて「壇ノ浦の風の音です」と云う。
 

松江でのエピソード

 松江でのエピソードも盛りだくさん。
 人の好みがはっきりしていて、嫌いな人は嫌い。松江の宿屋の娘さんが目を患っていた。自分も目を患っているヘルンさんは、宿の主人に医者に見せるように言うのだが、はいはいと言うだけで医者に連れて行かない。怒った(癇癪もち?)のヘルンさんは、お金を出して娘さんを医者に連れて行くと並行して宿を出て行ってしまう。しばらく経ってから、ヘルンさんの家の隣に引っ越してきた人が挨拶に来ると、その人は宿でヘルンさんと一緒になったことがあるので話題になった。宿屋の主人と友達か?っと、ヘルンさんが聞くと友達ですと答える隣人。私は好訪れますみません。さよなら・・・っと云って奥へ引っ込んでしまいました。セツがそのあと取り繕ったようです。
 鳥取境港からの旅行の帰り道で、人力車が悪路のせいで先に進めず、やむを得ず止まったボロボロの宿(蛍が部屋を通り抜けるなど)を大層気に入りもう一泊泊まりたいと言い出す(しっかりしたホテルは嫌い)。
 松江は大変気に入ったのですが、冬が寒いのが耐えられない。明治当初の松江にはストーブがなく火鉢のみ。学校で講義中もコートを着て講義。やむなく、転勤します(気に入っていたのもあって、たびたび旅行に山陰を訪れます)。

熊本、神戸、東京へ

 都会嫌いで田舎好き。東京の学校に赴任しいる間も、西洋式の都会は嫌いで、郊外の借家などに住んで人力車などで学校に通い、その癖、家に帰った時にはセツがいないと不機嫌で大変困った状況などが切々と描かれています。このへんの話は、新宿が田舎だったことが想像できないとピンとこないかも知れませんが・・・新宿は江戸ではないので(最初の宿場町なので、小生の土地勘は後述します)。新宿に住んでいた晩年の家の隣の瘤寺とのいざこざは、下記リンクに付記したエピソードもご参照ください。

怪談の誕生

 怪談に限らず、日本に関するお話はセツからの聞き取りとディスカッションで生まれます。
 このため、セツには新しく入手した話は暗記するように頼み、夏の夜の会談ではありませんが、セツに物語を語ってもらいます。セツの話に集中して耳を傾け、本当に顔色肌色が変わるくらい怖がったりします。そして、セツにいろいろと聞いて、英語の作品にしていったようです。
 耳なし芳一は、ヘルンさんが大変気に入った話ですが、元々は短い話だったようで、セツにどう思うか聞いたりしていたようです。武士が「門を開け」では強みがないと夫婦で考えた末「開門」としたとのことです。

感想

 本当に人間味あふれるヘルンさんを、ただただ語ってゆく。名著。

 晩年のヘルンさんは、新宿区富久町の家から夫婦でいろいろなところを散歩している。雑司ヶ谷の墓地あたりを気に入って、引っ越したいと言ったり、(小生の土地勘のあるところではあるが)自分は落合の火葬場で焼かれるとか、中野区の新井薬師まで足を延ばしている。
 落合の火葬場は今でも現役の火葬場だ。明治時代からあったんだと再認識。
 新井薬師は、小生は縁日(8の日)の出店に買い食いに行った記憶がある(パンかつだったかな・・・お気に入りだった。一度だけバナナのたたき売りが来て、どんどん値段が下がっていった。最後の「もってけドロボー」を期待して粘ったが、誰かが全部買ってしまった。残念だった)。そういえば新井薬師は目(眼病治癒)にご利益があると言われていた。

 この気難しい明治人を妻として支えるのは大変だったろうと思う。
 ヘルンさんに「ママさん」と呼ばれていることも・・・当時からママさん・・・ママさんの先駆け?夫婦仲良く・・・セツさんの掃除が嫌いだったようだが・・・息があった二人の夫婦漫才というと語弊があるが・・・楽しいほんわかした気持ちで読めました(多分、セツさんの人となりが字に表れているのだと思う)。

 著者小泉セツさんは、朝ドラ ばけばけの主人公のモデルになった人。小生、以前にやったNHKのドラマの方を再放送かなんかで見たのをうっすら覚えていて、ヘルンさんが本名は別名だと誰かから教わって夫の名前を知らないなんてと驚くセツさんが印象的でした(松江の寒さと、セツさんが焚く火鉢の温かさも印象的)。

まとめ

 本書の魅力の何分の一も伝えられなくて申し訳ない。

 ヘルンさん(ラフカディオ・ハーン小泉八雲)とママさん(セツさん・小泉セツ)の出会いから別れまでが切々と本人の口から語られる、ほんわりした、いい話です。

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関係外部リンク
 小泉八雲 – Wikipedia
 小泉節子 – Wikipedia
  怪談 – Wikipedia

 ばけばけ – NHK
  髙石あかり – Wikipedia
  髙石あかり | アーティスト・作品 | エイベックス・ポータル

  トミー・バストウ – Wikipedia
  トミー・バストウ|Tommy Bastow | officeMUGI
  TOMMY BASTOW | CAMINO REAL

 日本の面影 – Wikipedia
  檀ふみ – Wikipedia

自証院 (新宿区) – Wikipedia 瘤寺(ふしでら?と呼ばれていた寺院)・・・作中では、八雲が家の隣にある瘤寺の杉並木を気に入っていたのに、経営難で3本切ってしまいガッカリしたところで、老僧と入れ替わりに来た若い和尚がどんどん木を切ってしまい激怒する。でも、お葬式はこの寺で(当時は和尚が変わっていた)。ちなみに、お墓は、景観などが気に入っていた雑司ヶ谷の共同墓地。

 雑司ヶ谷霊園 – Wikipedia
 落合斎場 – Wikipedia
 梅照院 – Wikipedia ・・・ 新井薬師の別名

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